東京高等裁判所 昭和26年(う)4977号 判決
原判決が、その理由において、「被告人は昭和二十六年七月二十四日午後十時半頃新潟市西堀通五番町附近の路上でI(当十六年)に対し、「一寸話したい事があるから来て呉れ」と欺き手を引張つて同女を附近の北山浄光寺附近に連れ込み同女のパンツの中に左手をつつ込み左手指で其の陰部を弄び更に背後から同女を抱きしめ其の陰部に自己の陰部を強く押し当て以て同女の意思に反して猥褻の行為をなしたものである」との事実を認定判示し、これに対して、刑法第百七十六条を適用処断していることは、所論のとおりであつて、所論は、右のような判示では、被告人が、暴行又は脅迫によつて、猥褻行為をした具体的事実の認定がないから、これに対し、刑法第百七十六条を適用したのは違法である旨を主張するにより、案ずるに、刑法第百七十六条前段の強制猥褻罪は、十三歳以上の男女に対し、暴行又は、脅迫を以て、猥褻の行為をすることによつて成立する罪であるから、同罪の犯罪事実を判示するには、十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を以て、猥褻の行為をした具体的事実を判示するを要することは、所論のとおりであるが、同条にいわゆる暴行又は脅迫を以て猥褻の行為をするとは、必ずしも、先ず、相手方に対し、暴行又は脅迫を加えて、その抗拒を著しく困難ならしめた上、猥褻の行為をする場合のみをいうのではなく、相手方に対して加える暴行々為自体が同時に猥褻行為と認められるような場合をも包含するものと解すべきところ、原判決においては、前示のように、被告人が、午後十時半頃の夜間、屋外の路上において、当十六年の少女に対し、手を引張つて附近に連れ込んだ上、同女の意思に反して、そのパンツの中に手をつつ込み、指でその陰部を弄び、更に、背後から同女を抱きしめ、その陰部に自己の陰部を強く押し当てた旨を判示しているのであつて、被告人のこのような行為は、まさに、右少女に対する暴行々為であると同時に、それ自体が、猥褻の行為である場合に該当するものであるというべきであるから、原判決には、所論のような暴行によつて猥褻の行為をした具体的事実の認定判示がなかつたものということはできない。
従つて、原判決が、右判示事実に対し、刑法第百七十六条を適用したことは正当であつて、原判決には、所論のような法令の適用を誤つた違法はないから、論旨は理由がない。